「一人の岸部が生きたということは,十人の岸部が,いや百人の岸部が生きているということでもある。」本文より。確かに我々は,いろいろな人との関わりの中で顔と顔を会わせて暮らして来た。その関係の深度はそれぞれだが,そこには人が人を思う気持ちの温度があった。だが今日的なネット社会の海の中では,ちょっと極端な言い方だが、「私」が無限に存在するだけでリアルな関係性の実感はない。つまらないとは思わないのだろうか・・・。思いが刻まれながら月日を重ね,年老いていく、静かな日常が描かれた一冊である。
*竹西 寛子著 幻戯書房 2011