「マザーズ」

2012/04/07(Sat)



「十代の頃のように、はらわたを引きずり出すようにして全てを吐露していた頃のような痛々しい人間関係を持つ事は、もう出来ないのだ。大抵の事には笑って答え、悲しみや苦しみは体内で処理して、私は平気ですよという顔でまた外に出て行く。それはきっと、子供に見られたくないからだ。子供に見られたくないから私たちは陰で泣き、陰で苦しむようになったのだろう。汚物を人目に晒さないようにトイレが進化したように、私たちは自分の負の感情を子供たちに見せないように、ある種の感性を麻痺させて進化したのだろう。でもシンデレラ城の裏が張りぼてであるように、子供たちが目にする優しい母親の裏には、ぞっとするようなマイナスの感情が渦巻いているはずだ。」本文より   今、産み育てる難しさと母性の労に敬意を思う一冊である。それにしても男の何と単純な事か・・・。

*金原 ひとみ著 新潮社 2011

No.255

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