「東京」
2009/12/18(Fri)
「おんなは・・・」「男は・・・」で始まる短編は、その出だしから深さを秘めている。その深さは、社会に流れる倫理観ではとても測ることのできない情念の中にある。いい年になってみると、ふと本性がそがれていくことを気にしなくはないが、いつのまにかそんな約束の中にいる。時々ああしたい、こうしたいとその思いを確かめたくなるが、その勇気が持てない。それが普通ということなのか。オブラートに包まれたような空気が人と人の間に漂い、情念なんて言葉は今時聞かなくなった。何の抵抗もなく心に宿りそして揺れ動く気持ちが、自分の中にどうしようもなく広がる一冊である。それがわかる年になったということかな。
*佐藤洋二郎著 講談社 2009
No.120
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