「骸骨ビルの庭」
2010/02/06(Sat)
骸骨ビルの庭は、単なる庭ではない。かつて畑として野菜を育て、その日々が孤児達の心と体を育てた。そして成人になっても彼らは、その絆を大切にここで暮らし続けている。このビルの立ち退き処理に派遣された一人の男は、その絆の強さに何かを感じて物語は始まる。そこで彼は、ゆっくりとゆっくりと畑を耕すように住人一人一人と向き合い幼いときの記憶を語ってもらうことで、そこでの日々と育ての親の人となりを浮かび上がらせていく。それと同時に彼らの絆の先にある深き底力を、感じ取っていく。それは、決して忘れてはならない思い出と深く繋がっている。人の記憶を耕すことは、思い出を蘇らせること、それは人を思うことへと繋がる。戦争のことは知らないが、いつの時代でもそこには人と人の間の基本があるように思う。我々は面と向って人とつき合うことに不得意になっている今、読みたい一冊である。
*宮本 輝著 講談社 2009
No.130
Takabeya Pocket Card