「わたしがいなかった街で」
2012/09/29(Sat)
「六年間、まったくばらばらなことをしていて、なんの関わりもなかったのに、それが今日ここであっちとこっちから歩いてきて出会うことは、天文学的な確率ではないと考えてみる。・・・しかし、そう感じることはすべて、あとから時間を遡って考えてしまうからで、本来は時間は先のわからない未来に向かって進んでいるだけだから、たいした意味はないのかもしれない。」本文より。パソコンは、過去を記録することと記憶することのちがいを曖昧にし、運命という言葉の強度をなくす。この頃、肉体的、空間的な響きを持った言葉が使われなくなったし、聞かなくなったと思う。憂える前にもう小説家は、過去と未来を言葉で紡ぎ始めている。小説家のナイーブな感性を思う一冊である。
*柴崎 友香著 新潮社 2012
No.280
Takabeya Pocket Card