「スロープ」
2010/07/19(Mon)
「スロープ」と聞くと、何となくとても機能的な物のように思えてくる。これが「坂」と聞くと、言葉の広がり具合が違う。例えば、「切り通しを登りきると海が見える・・・」と言った具合に、とても美しい物がその先にあるようなイメージが広がる。ところがこの物語では、「坂では、事件が起きやすい。坂をいくとき人は、刃物をかざしたくなる。坂の傾斜が人のこころを傾ける」などと、いささか心みだれる場所として現れる。坂の持つ転げ落ちるような感覚は、美しいイメージの裏側に同じだけある物を代弁しているのかもしれない。そうしてみると、坂の多いまちには、魅力的な所が多いのには、日々の暮らしの中で揺れ動く人の心の機微がたくさんその地に落ちているからなのだろうか・・・そんな気がして来た。普段何げなく登ったり下りたりしている坂のまちにある存在感を、改めて思う一冊である。今度散歩で坂に出くわしたら、ブツブツつぶやいてみようか。
*平田 俊子著 講談社 2010
No.165
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