「下流の宴」

2010/08/18(Wed)



我々は皆、自分達を中流と思っている。といって誰も上流と下流の境が、どこにあるのか知らない。そこが幸せの起点だから、皆中流に居続けたいと思っている。この物語は、そんな中流から憧れや逃避によって抜け出そうとする子供達と、戸惑う両親の話である。
「さかなはさかな」という池に暮らすオタマジャクシと魚の絵本がある。大きくなり陸へ行って来たカエルが、そこで見た牛の話をする。魚は、魚の姿に角がついたり、大きなおっぱいがついたりという具合にしか想像ができないという話である。これは、中流という池に住むこの家族の限界に似ている。人はカエルのように変身は出来ないが、人と直接関わりながら自分を変えて行ける力を本来持っていたはずだ。それは、この物語で言えば珠緒のように、いろいろな人の力を借りながら流域の壁を越えて行く逞しやかな人間力のことだと思う。人と人が繋がる面白さ、その力の大切さを思う一冊である。
*林 真理子著 毎日新聞社 2010

No.170

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