「真綿荘の住人たち」

2010/09/18(Sat)



木造二階建ての賄付き下宿と聞くと、ちょっと心和む懐かしい気持ちがして、酒を飲みながらよく朝まで議論をした学生時代の熱い友を思い出す。そして、喰えない漫画家の卵が集まって暮らしていた「トキワ荘」のように、ひとつの夢に向って頑張る仲間達の話を思い出す。ところがこの下宿物語は、今風である。何が今風かというと、それは一つ屋根の下で共に暮らす意味に方向性がないことである。むしろ方向性がないからこそ心のキズを持った人達が集まりやすいのかもしれない。だからここでの暮らしのルールは、昔の青春ドラマのような汗と涙と感動の関係ではない、むしろ何かしてあげたいのだけれど、土足で人の気持ちの中にどこまでも入って行くことも、来られることも良しとはせず、気にかけながら見守る。この人と人の間のビミョ〜な距離感が、この客観が、まさに今風の人間関係なのだと思う一冊である。

*島田 理生著 文藝春秋 2010

No.175

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