物語は、捕鯨船、稲作農家、昔話、屋台といった時代の中で消え行くもの、自家用車、電灯、団地、宇宙といった逆に現れて来たもの、60年代という日本が描かれている。今、60年代を特別扱いする考えもあるが、時代は繋がっている。60年代があって今がある。ただ、60年代を小学生の子供として過ごした自分にとって、知らない間に時代遅れになってしまう今のスピードは、戸惑うばかりである。それは、少しずつ目に見えるかたちで変わっていく実感のなさにある。豊かさとは何だろう・・・少しバランスが取りたい時に手にしてみると良い一冊である。
*熊谷 達也著 文藝春秋 2010