「その日東京駅五時二十五分発」

2012/11/04(Sun)



「どうして私たちは、自分の知らない時代のものたちの起こした戦争の、嫌な話や、悲しい話を聞きながら育たなければならないのだろう、と、ずっと思ってきました。日本人として、広島に生まれたものとして、「知っとかなきゃいけない」というのは理屈では分かっていても、殺したり、殺されたり、焼いたり、焼かれたり、そんな話ばっかし。頭が割れるほど嫌だった。・・・しかし、誰も生まれる場所は選べないのであって、この国の戦後に生を享けた限り、あの戦争の残した翳りとは決して無関係には生きて行けないわけですが、それでいながら、実際に経験をした世代との間にもまた、「知るもの/知らぬもの」という絶対的な壁が永久に立ちはだかっているのでした。」作者文。 戦争を知らない我々にとって、語り継がれなかった戦争体験は、遠い闇の中にある。ただ、歴史は繰り返されるというのならば、知らないことで危険な事態をまねきかねない。今我々は、その分岐点にいる。まず一つ、玉音放送とは違う8.15を知る一冊である。

*西川 美和著 新潮社 2012

No.285

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